堕落、あるいは覚醒の象徴。
一般的には凶を意味するカードとされるが、今回はトート・タロットでの解釈を交えて考察してみる。
在りし人々は何か凶事が起きれば悪魔の仕業とし、理解不能な隣人の所業を「悪魔に憑かれた」と解した。
【悪魔】はその名の通り、古来から「悪」を体現する存在として人々の生活を脅かす存在であった。
ところで、「悪」とは何だろうか。
キリスト教においての【悪魔】とは、「絶対なる神に背いた敵対者たちの総称」であるという。また、現代に悪魔として伝えられる存在の中には、異教の神格が悪魔として貶められたものも多い。
その文脈において、「悪」は単に「権威にとって不都合なもの」、あるいは「理解を放棄された者たち」の象徴と解する事もできる。
前置きが長くなったが、【悪魔の正位置】が示すのは「もう一つの価値観」である。
社会の枠組みから外れたアウトサイダー、それは傍から堕落と受け取られることもあるだろう。
しかし裏を返せば、それは社会の方が異なる価値観に不寛容であったり、既存の価値観に固執しているだけとも言える。
ウガリットの主神バアルは、未知なる文化への傲慢によって悪魔へ貶められた。同じように、社会から追放されたという事実が、彼の悪徳を照明するとは限らないのだ。
キャラクターとしては「自身の言動や周囲からの誤解によって白い目で見られがち」「ただし、視点を変えればその行動は理にかなっている」、そんな人物が当てはまる。
既存の価値観を疑うという意味では【愚者】に近いカードだが、愚者は大衆への迎合も可能性の一つとして含むのに対して、悪魔はベクトルが「反・常識」に固定されている点で異なる。
典型的なもので言えば「義理堅いヤンキー」、極端な例で言えば「革命家」や「冤罪を受けた囚人」などが当てはまるだろう。
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